森が味読し、河杉の詠草より抄出した五十首の中から、さらに六首を抜いてみる。
をとめ子は寸にもたらぬ絹の糸 うち捨てかねつ紅色なれば
緋ぢりめんの襟かけし子に逢いしかば かろいねたみに走(は)せてもどりぬ
ほのぐらき宵は葉茶屋のまな娘 のれんかかげて世の中を見る
日当りの針箱などもかたづけぬ われにまれなるしづ心かな
何となく物の待たれし今日の日も ただおいらかに暮れにけるかな
このさがの忘れやすさをいのちにて 春をかそけくわが住みにける
第二首は、森のみならず、当時の識者のみとめるところのようだが、第五首について森は、
「無技巧の歌で、何の道具立もあるのでなくて、作者の気持がそのままに読者に迫る」
と、森の感動がそのままに見える評を下している。
森=森銑三
河杉=河杉初子
―「学歴のない学歴」
(森田誠吾『明治人ものがたり』岩波新書)